明瞭度への挑戦
電波を飛ばすセッティングを煮詰めていますが、先日海外運用をされたことのある方から「明瞭度の高い声、音と音の区別がハッキリしている声はパイルアップの中でも拾いやすい」というお話をいただきました。
「なるほど」と思えるお話です。ついつい飛ばすことに熱心になってしまい、平均電力を上げることに集中してしまいますが、確かにコンプレッサーがガンガンに入って、バックノイズや声以外の呼吸音まで入った信号よりも、音と音が明確なハッキリとした声の方が聞きやすいですね。
つまり、音と音の間の本来なら「無音」の部分と「音」の部分のS/N比が高いことが「明瞭度」を上げるポイントのようです。
一般的には高めの音質が飛ぶとされていますが、まずS/N比を高くしないとダメということです。また、周波数の高い音はメリハリを、低い音はポリューム感をだしますので、高めの音質神話(?)との整合性もあります。
機材にはダイナミックレンジを広げるツールとして「エキスパンダー」や「ノイズゲート」があります。
僕のマイクプリアンプにもエキスパンダーが付いています。スレッショルドレベルを-60dbに設定するとバックノイズで少し動作してしまいますし、無線機のファンが高回転で回っている状態も考慮すると-50db程度が限界です。
もう一つの問題はリリースタイムを0.7秒位にすると、音声信号が途切れてからファンの音を拾ってしまいます。リリースタイムを短くすると、今度は強めにエキスパンダーがかかってしまい、声の弱い部分が消えてしまいかなりデッドな声になってしまいます。
そこでノイズゲートとエキスパンダーを組み合わせて、音と音の間のS/N比を上げて明瞭度の高い音質の音づくりに挑戦してみました。
暫くテスト的に運用しましたが、交信した相手の方からは好評で、中には明確に「音と音の間が無音になるため非常にメリハリがある。音質的に悪くもなく非常に聞きやすい。」と、まさにこちらの狙い通りのレポートを送っていただいたomさんもいらっしゃいました。
さて、それでは設定方法です。
機材は僕のものですがノイズゲートとエキスパンダーを組み合わせれば別の機材でもほぼ再現可能だと思います。
また、いづれか一方のみ入れた状態でも最終的な状態の7~8割程度の完成度だと思います。どちらかだけでも効果はかなり期待できる・・・と思って間違いありません。
接続構成
マイクロホン → マイクプリアンプ → ノイズゲート → エキスパンダー →他の機材
マイクアンプで増幅されたバックノイズが無線機に入らないようにスレッショルドレベルを設定します。ノイズゲートはスレッショルドレベル以上の信号を通して、スレッショルドレベル以下の信号をアッテネートします。
今回のセッティングでノイズゲートに求める役割は「音」と「音」の間を無音化させることです。ゆったりと話した時に「音」と「音」の間で動作するように、ゲートがオープンしてから10-15ms程度でクローズするように設定します。
殆どのノイズゲートでアッテネート量を調整可能ですが、今回は軽く-10db程度にします。アッテネート量はdb単位で指定する機材やレシオとして指定する機材もあります。ここでアッテネート量を大きく取ってしまうと、話し方などによってはゲートがパタついた時に不自然な音になってしまうのでモニターしながら音と音の間のバックノイズが消え具合と音声の自然な繋がりの妥協点を探します。
この設定は人間の錯覚(?)を上手に利用するんです。メリハリを耳で判断する場合、どうやら人間はピークと底の差で判断するようです。ですからマイクゲインを上げてピークを上げても、底も一緒に上がってしまうので×。ピークは変えずに谷間を深くしてあげるとダイナミックレンジが広がってメリハリが効いて「音量が上がった」ように聞こえるようなんです。
仕上げはエキスバンダーです。エキスパンダーのリリースタイムを0.5-1.5秒程度に設定して、音声のフレーズ内(「こちらは」とか「そうですね」とか音が並んでいる間)はゲインリダクションが働かないように、でもフレーズの間ではしっかりとゲインがリダクションするように設定します。
すると、音と音の間はノイズゲートで、フレーズとフレーズの間はノイズゲート+エキスパンダーが効いて更にダイナミックレンジが広がります。
このように音声を加工すると、当初マイクアンプからの出力では0db~-50db程度のダイナミックレンジだったものが、0db~-70db程度まで広がります。
まぁ、普通のシャックならばノイズレベルも高いのでマイクアンプの出力は-5db~-40db程度だと思いますから、それが-70dbまで広がるのは大きいです。
その上で-30db辺りをスレッショルドレベルにしてコンプレッションを掛けると、コンプレッションによってバックノイズが増幅されることはありませんので、音声「のみ」がコンプレッションされ、結果的に明瞭度の高い音質で且つ音量を一定にすることができます。
上記のような設定で10局程度QSOしましたが、約半分の相手局から「聞きやすい」とか「明瞭度が高い」というレポートを頂いたので、効果は確実にでていると思っています。
でもバイルアップに強くなったか?は不明です。7メガのJCCサービスのパイルで試したところ、以前より順番が早くなったように感じましたが・・・。
また、エスキバンダーのゲインリダクションやホールドタイムを細かく調整できればノイズゲートは不要かもしれません。僕のエキスバンダーはスレッショルドレベルとリリースタイムしか調整できないため、ノイズゲートとの2段構成になっています。
シャックがスタジオのように静かな場合でも、ファン付きの無線機やPCがある限り、無音部分が-70db以下の状態は難しいと思います。
| 固定リンク
コメント