スッキリ低音へのアプローチ
人の声にはそれぞれ特徴があって、声紋というように同じ声の人は居ない・・・・というほどバラエティに富んでいます。
無線の場合はHi-Fi SSBでも日本では3Khzしか使えませんし、標準的な2.4Khz幅であれば普通は300-2700hzと大変狭い帯域しか使いませんので、一番低い基本周波数の音はカットされているのが普通です。Hi-Fi SSBでは頑張って基本周波数の音を送信している・・・とも言えます。
恐らく低音へのコダワリは、この基本周波数の音を通したい・・・ことから始まっているように感じています。
声の基本周波数は人によって、また発音によって変化しますが、僕の場合は「い」が最も高く、「え」が最も低い周波数になります。
下の図は「いーーーー」と発音した場合の波形です。
基本周波数の音は120hz、倍音は220hz辺りにあります。
次に一番低い「えーーーー」と発音した場合の波形です。黄色の線は基本周波数の音と、その倍音のピーク周波数が移動する幅を示しています。
基本周波数は80-110hz、倍音は150-230hz辺りにあります。
僕の場合、低音の魅力を出すためには基本周波数の音である80-110hzを抜き出して処理(イコライザーとか・・・)すれば良いことになります。
イコライザーなどを使う場合、この基本周波数の音や倍音の周波数分布を頭に入れて操作しないと、中々思い通りの結果になりません。
このグラフは僕が現在オンエア用に使っている設定で、相手の受信機の周波数特性(帯域外減衰特性・・・かな?)に合せてローエンドとハイエンドが高くなるように設定しています。
最近の無線機のフィルターは一昔前の無線機より甘めとは言え、150hz以下と2800hz以上は減衰が顕著ですから、送信側で補ってしまおう・・・というわけです。
もちろん相手がIC-7800のように完全にフラットな受信特性で聞いていても、ヤラシクならない程度に・・・・です。
ここからが本題。
スッキリした低音を聞かせるためには、基本周波数の音を何としてもある一定のレベル以上で相手の耳に届けることです。
基本周波数の音が自分の声で一番低い周波数なんですから、当然ですよね?
そして、基本周波数の音よりも「少し低い」レベルで基本周波数の音の倍音を届けるようにします。グラフで見ても判るように基本周波数の音と倍音が右肩下がりになるようにします。
色々な方の波形の分析結果から、この「右肩下がりの法則」は低音の魅力と明瞭度の両方を満足している場合にはかなり高い確率で現れる条件のようです。
もちろん、綺麗な右肩さがりなら良い音・・・とは言えませんが、良い音で聞こえる確率が高い・・・とは言えると思います。
もちろん、地声で基本周波数の音よりも倍音成分が一番レベルが高い・・・という方も僕も含めて多数いらっしゃいますので、そこは地声を加工しないと右肩下りにはなりません。
音の加工は機材でもマイクでもできますが、C/Pは機材の方が高いです。
また今回のように低い周波数のレベルを上げる・・・と言うと、すぐに「イコライザー」が頭に浮かびますが、入力するのはピンクノイズでもなければ正弦波でもなく、音声ですから、ダイナミックに処理してくれるエンハンサーを使うと効果的です。
そうですねぇ・・・・もし、現在1500円のカラオケマイクを使っていて「スッキリした低音を出したい」と思っているのであればマイクをSUREのSM-58に変更しても「ん~、良くなった」程度に変化すると思いますが、エンハンサーを入れると「ええっ!」と驚く位変化します。
もちろん、その前に無線機が100hz付近を送信できないと、あまり意味はありませんけど・・・・。
エンハンサーを使う場合の注意点は「基本周波数の音」をエンハンスさせることが目的で、低域をエンハンスさせることが目的ではありません。
自分の基本周波数の音「だけ」をエンハンスさせるのです。倍音もエンハンスしてしまうと、不自然な声になったり、特定の発音が籠もった声になったりと成功しません。
簡単に言うと、マイクで拾った声を2分割して、一方をBPFに通して基本周波数の音だけ抜き出して、ハーモニクス関連の処理後にコンプレッサーを強めに掛けてあげた出力と、元のマイクからの出力をミキサーで混ぜてあげる・・・ような処理を一台でやってしまうのがエンハンサーです。
エキサイターも同じ原理ですが、一般的にはローエンドをエンハンスする・・・という意味でエンハンサー、ハイエンドを更にエキサイトさせる・・・という意味でエキサイターと使い分けていることもあるようです。
まぁ、無いところをエンハンスする・・・というのと、元々ある音をエキサイトさせる・・・という感じでしょうか?
なぜ、イコライザーではなくエンハンサーをオススメするのか? それは自分でイコライザーで低音をブーストして、無線機のALCをビンビン振らせてみれば判ります。
相手は入力レベルにシビアな無線機ですから、こればかりはリニアアンプでは色々と不都合がでてくるわけなんです。
イコライザーしか持っていない・・・という方は下から二番目の倍音をイコライザーで押さえる(減衰させる)ことで相対的に右肩下りにしてみてくださいね。
こんなことを考えている観点からIC-7800を考えると、デジタル入力に加えて、C/N特性の改善などで送信時のダイナミックレンジを広くするようなマイナーチェンジしているように、送信音質面でもどんどん良い方向へ行っているようで、嬉しい限りです。
IC-7800にアナログ入力した場合と、デジタル入力した場合では、間違いなくデジタル入力の方が送信音質が良くなります。
自分でモニターしても感じますし、他の方が切り換えてもデジタルにすると音が良くなるのが判ります。
但し、入力する音のクオリティが高くないと、アナログ入力でもデジタル入力でも「変化しない」ことになります。
特に数十ヘルツの低周波なんかは、芯線が0.1mm程度の細いケーブルでアナログ伝送するとかなり劣化しますが、デジタル伝送では殆ど劣化しません。
僕の経験ではIC-7800へ入力するソース自体のS/Nが70-80db程度だとアナログでもデジタルでも変化ありませんが、S/N 90db程度になると差が「ん~?」って感じで出始め、S/N 100dbを超えると差が「あっ、良くなった」って明確になるように思います。
もっとも、聞き分けるのは・・・・なんて言ったらいいのか、音の全体像を眺めて聴き比べるような感じで、決して特定の音を聞いていて、変化が判るわけではありませんし、シーーーってノイズが聞こえる、聞こえない・・・ってレベルではありません。音の解像度が下がる、上がる・・・って印象だと思います。
自宅でダミーロードを毎日温めているうちに、S/N 105db以上の機材のラインの途中にS/N 97dbの機材が入ると音の粒立ちが悪くなるのが判るようになりました。
でも、最初は「全く」わかりませんでした。耳って鍛えれば良くなるみたいです。先日、自分でも気づいていなかった微小な歪み(僕の設定ミス)を、交信中のあるomさんからズバリと指摘されました。
レベルにして2db程度の差で、且つ100hz付近の音のことなんです。凄い、高音ならわかるけど100hzの音の歪みに気がつくなんて!!
早くそのomさんのような耳にしたいなぁ~と思いつつ、良い音で音楽や無線を聴く毎日です。なお、そのomさんは音関係ではセミプロでいらっしゃいますので鍛え方と年季が違う・・・ようです。
でも、少し聞けるようになって全部の機材をS/N 105db以上にしよう・・・なんて考え始めると、アナタも泥沼にズッポリ・・・(笑)。
嗚呼どこまで続くこの泥濘ぞ・・・。
■追記■
記事中に不適切な表現がありましたので修正しました。全体の文意には変化ありません。
| 固定リンク
コメント